会員コラム:心臓病児者の未来を案じて 宮崎大学医学部 小児科学分野 原田 雅子
わたし自身は、もう周囲から結婚を急かされることもなくなった年齢となりましたが、まだまだ未熟者の小児循環器医(子どもの心臓病が専門)です。新生児・乳児健診や夜間急病センターでの一次診療を行う傍ら、心臓病の患者さん(新生児から大人まで)の急性期、慢性期の診療をしており、日々、自分が関わった患者さんの将来を案じております。
最近、20歳になったばかりのわたしの患者さんで、ある問題が起きました。その方の身体障害者手帳注1の更新の際に、県の担当者より意見書が間違っていると連絡がありました。心臓機能障害の認定基準は18歳未満と18歳以上で違います。18歳未満用の診断書では先天性心疾患の所見が中心なのに対し、18歳以上の診断書では虚血性心疾患(いわゆる成人病)の所見しか項目がありません注2。現在の厚労省の疑義解釈によると、先天性心疾患患者では18歳以上でも新規で手帳申請した場合、18歳未満用の診断書を用いてもよいことになっています。よって、この患者さんでも18歳未満用で更新申請し、そのことを伝えて担当者とやり取りを繰り返したのですが、結果的には認められませんでした(3級→4級に降級となりました)。注3
先天性心疾患の赤ちゃんは100人に1-2人と比較的多く産まれ(宮崎県では年間100人以上)、昔と比べると助かる確率も上がってきました。大人になった多くの先天性心疾患の患者さんたちが成人して社会参加をすることは重要で、我々は福祉制度を通じて支援していかなければならない立場にあります。都道府県によって認められることと認められないことが異なる現状があり、現在県外の先生方、全国心臓病の子どもを守る会注4と厚労省へガイドラインの明記を働きかけているところです。
堅い話になってしまいましたが、小児科医とは「子どもの総合医」です。病気だけでなく心や成長・発達、さらには社会との関わりや将来のことまで考えながら診療にあたっています。できるだけ多くの子どもたちが体も心も健やかに、地域・社会とうまく関わり、社会参加ができるようになることを願ってやみません。
注1: 心臓病児者は身体障害者福祉法に基づき「心臓機能障害者」として身体障害者手帳の交付を受けられる。
注2: 心臓機能障害を抱える多くの先天性心疾患患者では、18歳未満用(先天性心疾患を念頭にした所見項目)の基準は満たしても18歳以上用(成人病を念頭にした所見項目)の基準を満たさないことが多々ある。
注3: 本来すべての都道府県で認められるべきであるが、現状では都道府県によって認められたり認められなかったり・・・。
注4: 心臓病児者とその家族のために活動(医療制度改善、社会保障・教育制度の充実等)している一般社団法人。