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会員コラム:3歳半健診で なつみ小児科クリニック 安部 なつみ

「3歳半健診で」

私は、外来小児科診療を始めて12年目の 開業小児科医です。先日保健所で、3歳半児集団健診がありました。その中で 一人の男の子が、とても印象に残ったのでそのお話を書きます。

その日は五十数人の子どもを二人の小児科医で診察しました。子どもの成長と発達を診察し評価し、子育ての環境と 保護者の様子をうかがって、できる限りの助言をしたいと思っていますので、いつも緊張しています。

その男の子は、「お名前は?」「何歳ですか?」「今日は誰と来ましたか?」「保育園では何組ですか?」などの質問に、まっすぐ私を見つめて答えました。診察中も、じーーっと私の目を何も言わずに見つめます。表情は概ね好意的(と私は感じたのですが)で、目をそらすことなく、「ばいばい」しながら部屋を出ていきました。「健康面に何ら問題なし。集中力もあり大変よろしい」と私は判断しました。

ですが 帰路の運転中に、「彼は何を思っていたのだろう?」ととても気になりました。もしかして、私に質問を投げかけていたのではないかしら?「あなたは何者ですか?僕に何をしようとしているの?」と。

日常の診察で、まだ言葉の出ない乳児も、言葉はあるけれどなんて表現していいか困惑している思春期の中学生も、心の中ではたくさんの思いを持っていると感じてはいました。いつも私は問いかけながらその思いを探っていたのですが、逆に彼らも、私にたくさん問いかけていたのではないかと 愕然としたのです。

その男の子は惑いのない瞳でした。私に助言する資格があるのかと 恥ずかしくなってしまうほどでした。ですが、この瞳の投げかけを受け止めて、応える大人にならないといけないんだと気づきました。

大人はいつも忙しくて気づかないけれど、子どもはいつも私たち大人をみつめて、問うているのでしょう。彼らの先輩として私達大人はよりよい社会を選択していきたいものです。私は小児科医として、これからも日々勉強です。