会員コラム:出生数激減の時代に、地方の小児科医として思うこと お倉が浜kidsクリニック 鈴木章平
「保育園落ちた日本死ね」という、今思い返してもかなり強烈な言葉が世に出たのが十年ほど前。あの頃は都市部の保育園不足が大きな話題になっていて、ニュースでも頻繁に耳にしました。ただ、私自身は地方で暮らしていたこともあり、「そんな状況なんだな」とどこか遠くの出来事のように感じていたのを覚えています。
ところが今、私たちが暮らす地域では、その頃とはまったく違う現実が広がっています。先日発表された2024年の日向市の出生数は305人。数字を見た瞬間、思わず「えっ」と声が出てしまいました。お隣の延岡市も同じような傾向です。2017年には523人の赤ちゃんが生まれていたことを思うと、この短い期間での減り方は本当に急激です。単純に計算すると、1学年30人のクラスが7クラス以上なくなったことになります。こうして数字で突きつけられると、やっぱり重いな…とため息が出ます。
私は日向市で 7園の園嘱託医をしていますが、園に伺うたびに「子どもたちはいつも通り元気だけど、人数はやっぱり少し減ってきたな」と感じることが増えました。園長先生から「昔は入園希望が多くて本当に大変だったんですよ」と聞くと、少子化が確実に地域に影響しているんだなと実感します。
地方では今でも「保育士が足りない」「小児科医が足りない」という声を耳にします。でも現場にいると、「それって本当に“数”の問題なんだろうか?」と感じる瞬間があります。保育園については、不足というより ニーズや働き方の変化とのズレのほうが大きく、保育士も“人数の不足”というより続けやすい環境づくりのほうが課題として大きいのでは、と思います。医療の世界でも、全国的に見れば医師数は増えており、小児科医も決して減少しているわけではありません。「不足」という言葉だけが少し先行しているように感じることがあります。
私は小児科診療に加えて病児保育の運営も行っていますが、こちらも少子化の影響を直接受ける領域です。利用の波が大きく、そのたびに地域の子育て環境の揺れを感じます。病児保育室で熱が下がっていく子どもを見守りながら、「この子たちが大きくなる頃、この町はどんな姿なんだろう」とふと考えてしまうこともあります。
出生数が減るという現実は重くのしかかりますが、小児科医としての役割はむしろ広がっていると感じています。発達支援、医療的ケア児への支援、保育園や学校との連携など、診療室の外での関わりがますます重要になっています。“子どもと家族に寄り添う大人の一人”として、できることはまだまだある──そんな気持ちで日々向き合っています。
人口減少が進む地方だからこそ、この変化を正面から受け止めながら、地域に合った子育てと医療の形を探していく必要があるのでしょう。子どもたちの笑顔は、どれだけ少子化が進んでも変わりません。その笑顔を守るために、小児科医として今日もできることを一つずつ積み重ねていきたい──そんなふうに思っています。


