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会員コラム: ご存じですか? 母子免疫ワクチン  〜生まれたばかりの赤ちゃんを感染症から守るために〜 宮崎県小児科医会 幹事(県立宮崎病院)中谷圭吾

ワクチンといえば、通常は接種された人にその病原体に対する免疫を得るために行うことはご存じだと思います。生後早期(出生から2ヶ月ほど)の赤ちゃんにワクチンを接種しても、未熟な免疫力のため効果が得られにくいことや、ワクチンの効果が出てくるのに通常 1ヶ月以上かかることから、生後 1ヶ月未満の赤ちゃんに対する効果は期待できません。
そのため、生後早期に感染すると重症化するリスクのある病原体に対しては、母体すなわち妊婦さんに接種して血中に増加した抗体が、胎盤を通過して臍の緒からお腹の赤ちゃんに移行することで、出生早期の赤ちゃんに免疫を与えることを期待するのが、母子免疫ワクチンです。
現在、国内で使用可能な母子免疫ワクチンは2種類で、百日咳菌に対するワクチン(トリビック®)と、RSウイルスに対するワクチン(アブリスボ®)です。
百日咳は、国内では生後2ヶ月からワクチンを定期接種するため、乳児後期から幼児期まではある程度感染予防、重症化予防効果が得られています。しかし小学校入学頃にはワクチンの効果が弱まり、学童や成人が感染して“ちょっと咳が強い風邪、咳が長引く風邪”として自覚のないままに周囲に感染を拡げることが問題となっています。
特に生後早期の赤ちゃんに家庭内感染して無呼吸発作や時には脳症や突然死の原因となることが知られています。
RSウイルスは、国内では2歳までにほとんどの子どもが1回は感染するポピュラーな呼吸器ウイルスですが、2歳未満の乳幼児が感染すると上気道炎から下気道炎(細気管支炎や肺炎)へと進展することがあり、約4分の1(年間約3万人)が入院しているといわれています。この入院例の約半数を生後6ヶ月未満の乳児が占めており、より重症化しやすいのですが、現状ではこのウイルスに対する治療薬も、乳幼児へ接種するワクチンもありません。
これらの母子免疫ワクチン接種が、生後早期の赤ちゃんへの感染や重症化予防の効果があることが分かっています。
さらに、現時点では臨床試験段階ですが、B群溶血連鎖球菌に対する母子免疫ワクチンも今後使用可能となると思われます。溶血連鎖球菌は、“ようれんきん”として咽頭炎や扁桃炎の原因となるA群が有名ですが、B群溶連菌は生後早期の赤ちゃんに敗血症や髄膜炎という重症感染症を引き起こすことがあるので、母子免疫ワクチン接種の意義があります。
これらの母子免疫ワクチンは妊婦さんに接種するので、早産など副反応が心配になりますが、いずれも臨床試験においては重大な副反応は見られていません。
ただし、現在市販の2種類のワクチンも現状では任意接種すなわち自費のため、(医療機関で違いがありますが)トリビックが5,500円、アブリスボが33,000円ほど接種費用がかかります。今後普及させていくためには、自治体による助成や定期接種化が望まれます。