会員コラム:水の事故 宮崎県小児科医会 幹事(山見医院)山見 信夫
今年の夏もたくさんの方が海で亡くなりました。7月1日~8月31日までの全国の溺水者は249人(うち行方不明を含む死亡は184人)でした。1日に約3人の方が亡くなったことになります。夏場ですから、溺れる場所はやはり海岸が多く、小中学生を含む29歳以下と70歳以上の高齢者が目立ちました。遊泳中は12歳以下、川遊びは13~19歳、釣りは70歳以上に多く、男性は女性の5倍近くにのぼります。
私の友人(研究所)には、スキューバダイビングや素潜りで亡くなった方のデータを解析している人がいます。事故があると即日メールを送ってきます。7月、8月の潜水死亡は10名でした(公になっていないケースは含めず)。最近は70~80歳代の素潜り漁師や海女さん(経験年数としては超ベテラン)の水死が目につきます。体に負担がかかる潜水漁業も高齢化しているようです。
海でなくなると、死因の多くは溺水(または溺死)とされます。しかし、溺死は結果であり、原因は他にあります。死後の解剖や死亡時画像診断(Ai)による死因解明も少しずつですが進んでいます。病理医や放射線専門医などとともに、亡くなる直前に何が起こったのか、考え続けると核心が見えてきます。たとえば、浸水性肺水腫(浸漬性肺水腫、水泳誘発性肺水腫)という病気をご存知でしょうか。浸水性肺水腫とは、泳いだり潜っている最中に、血液成分が肺(肺胞)に漏れ出て息が苦しくなる病気です(海水を吸い込んで起こる肺水腫や死後に生じる肺水腫とは違います)。浸水性肺水腫を起こすと溺れる確率が高くなります。スキューバダイビングではよく見かける病気ですが、シュノーケリングや水泳中に発生することもあります。
溺れている人は、海面で大声を出したり海面を叩いたりしてもがく印象を持っている方が多いようですが、そういうケースは一部です。約70%の方は静かに溺れ、静かに海底に沈みます。溺れている多くの人は、声を出して助けを呼ぶ余裕はありません。目の前で溺れているのに、周囲にいる人が誰も気づかないことさえあります。水深1mで亡くなっている方もいます。海に浸かっている人の動きに少しでも違和感があったら、何かトラブルが起こっているかもと疑っていただきたいと思います。