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会員コラム:余市への旅 宮崎県小児科医会 幹事(大王谷こどもクリニック)仲地 剛

 昨年9月、念願叶って北海道の余市を訪ねた。積丹半島の付け根の東側に位置する人口2万人ほどの町。朝ドラ「マッサン」で脚光を浴び、その美しい自然が日本の誇るウィスキー造りに一役買っている。余市は面積の約67%が山林、約14%が畑地で豊かな緑と水に恵まれ、気候も北海道の中では比較的温暖で果樹栽培の盛んな町。
 旅の目的はワイン。日本を代表するワインが余市で造られている。現在この町には19のワイナリーがあり、ワイン用ブドウの栽培農家は50軒を超える。余市町と隣の仁木町と共にワイン特区であり、ワインツーリズムも盛りあがっている。

 羽田空港経由で新千歳空港に降り立ち、特急列車に乗って夕方小樽入り。余市の宿は3連休のためどこもいっぱいで、1日目は小樽で夜を過ごす。ひんやりとした空気、運河を照らす街灯のオレンジ色の光、運河に響くアコーディオンの懐かしいメロディ、遠くに来たなあと感じる。
 余市産ワインが充実している小樽駅近くの小さなレストランは、予約を断られた余市の宿の女将さんのおすすめ。地元の食材に舌鼓を打つ。シェフは余市でブドウを作るようになった初期の頃から栽培農家や醸造家を応援していた縁で、他ではお目にかかれない希少な余市ワインを卸してもらっている。そのラインナップが黒板に書かれている。可能な限りの種類をグラスで頂き、ワインの旨さを感じながら余市への期待が高まる。

 翌朝はバスに乗って余市へおよそ30分で到着。観光案内所でマップを入手してドメーヌ・タカヒコの展望台を目指す。綺麗なグリーンが斜面に広がる畑を見渡すと晩夏の風が吹いてきた。北海道にしては暑い9月だと地元の人は言っていた。
 農薬も化学肥料も使わず、この広大な畑のブドウを栽培している。とてつもなく骨の折れる仕事だとただただ頭が下がる。そのブドウを使って極上のワインを造り上げる。近年、日本ワインは世界でも高い評価を受けている。とりわけドメーヌ・タカヒコは評判で、その展望台に辿り着いて眺めた景色は忘れ難い思い出となった。

 「仲地くん、空いてる?」40年ほど前の入局して間もない頃、故佐藤雄一先生が主催する日本酒の会に誘われた。佐藤先生は非常に勉強熱心で、その酒について探究心を持って学ぶことを欠かさない人だった。産地、蔵、原材料、造り手などあらゆる情報を仲間に提示して美味しい料理と共に一口一口味わって愉しむ。回を重ねるごとにその勉強会は日本酒だけにとどまらず、ウイスキー、ワインとその幅を広げていった。時には旅に出て土地の料理に合わせてお酒を嗜む。休みが限られた中、弾丸旅行でパワーチャージしたあの頃は若く元気に満ち溢れていた。
 こうして僕のライフワークのきっかけを作ってくれた故佐藤先生には感謝している。師匠に習って、県北で仲間とワインの勉強をしながら飲むのを楽しんでいる。その中でも自然派ワインへの思いは強い。無農薬・無肥料で育てたブドウを手摘みで収穫、お月様カレンダーに沿って醸造、添加物なしで瓶詰め。定義は細かくあるがここでは割愛。余市に行きたいと思ったのはこの自然派ワインを造っているブドウ畑を見たかったからだ。実際にこの目で見ることができて有り難さを実感し、大事に味わおうと感謝。他の自然派ワインのブドウ畑も見てみたい。次は長野県小諸のテール・ド・シエルに行こう。そう誓った。


ナナツモリ

ドメーヌ・タカヒコ展望台

ブドウ畑