会員コラム:そうだとしても、約束違反であることは間違いない。 宮崎県小児科医会 副会長(宮崎生協病院)上野 満
高血圧の患者さんは、食事の塩分制限が必要なことは皆さんご存じの事と思います。そのなかで、こんな笑い話も生まれます。
医師 「みそ汁を薄味にしていますか?」
患者 「はい大丈夫です。半分に薄めて、2杯飲んでいます。」
医師 「・・・・・・」
高血圧の患者さんにとって良くないのは、ナトリウムの量です。半分に薄めても倍飲めば意味はありません(薄味に慣れることで他の食べ物から摂取する塩分が減る効果はあるかもしれませんが…)。こんな誤解が生まれるのは、言うまでもなく医師の説明が不十分だからです。*教訓1:薄めたから大丈夫というわけではない。*教訓2:説明不足はダメ。
さて、話は飛びます。私が子どもの頃、全国の海水浴場の水質が毎年発表されニュースになっていました。わが宮崎県民自慢の青島海水浴場は、毎年、全国のトップクラスの優良海水浴場として発表され、子ども心にも誇らしかったのを覚えています。この時、海の清潔度を示す基準として示されていた数字は何だったでしょう?正解は、海水中の大腸菌の数です。当時、私はあまり深く考えることもなく、海にも「ばい菌」がいるんだくらいにしか認識していませんでしたが、この大腸菌はどこからやって来ていたのか、皆さんはご存知ですね。実は環境省からの発表は今も続いており、「糞便大腸菌」ともっとわかりやすい名前で報告されています。最近ニュースにならないのは、下水処理が常識になり、糞便の海洋投棄が非常識になったからです。
古来人類は様々なものを海に廃棄してきました。生活排水はそのまま河川に垂れ流され、糞便も船に積んで、遥か沖合に投棄されていたのです。当時のニュースを見ると、瀬戸内沿岸県からの糞便が四国沖の太平洋に投棄され、その結果、高知県の海岸が汚染されてしまい、迷惑料を支払うことになった、というのもあります。
わが母なる海は、無尽蔵と思われる海水に満ちており、人間が出す微々たるごみは海に流しても環境には何の問題もない。この考えがいかに滑稽であるかは、水俣病の例を引き合いに出すまでもなく、昨今のマイクロプラスチック汚染が世界中に広がっていることを見れば、至極当たりまえの常識でしょう。国連は、全ての汚染物質を海に流すことを禁止しています。*教訓3:汚染物を海に捨ててはならない。
ここまで来て、何が言いたいのか、もうお分かりですね。原発事故が原因で発生した人類が経験したことのない質と量の放射能汚染水の問題です。処理に処理を重ね、おおよその放射性物質は取り除いたものの、現在の技術ではどうしても取り除くことのできないトリチウム。他の核種に比べると放射能は微弱なようですが、有害物質であることは間違いありません。既にタンクに蓄えられたトリチウムの全体量は膨大であり、しかも今なお増え続けています。薄めるから海に流しても大丈夫!として良いのでしょうか。
調べた範囲での結論をいいましょう。どうやら「安全」のようです。(えっ!)
なぜなら、「もともと人間の体では、一定の確率で遺伝子の異常は常に起こっているが、それを排除して修復するシステムを我々は自然に持っている。トリチウムの放射能はあまり強くはなく、微量の(薄められた)トリチウムを体内に取り込んで、多少DNAが傷つけられたとしても、その程度のものは自分で修復できる」という事のようです。毒だと知りつつ放出しますが、これくらいはあなた自身の免疫力で処理してくださいね、ということのようです。
どうです、皆さん安心できましたか。
私はどうも納得がいかない、、、