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会員コラム:「女性のてんかん患者における葉酸内服」について思うこと 宮崎大学医学部医学科宮崎小児地域医療学・次世代育成支援講座 池田 俊郎

2018年11月より、現職を拝命いたしました。

大学で神経疾患を担当しておりますと、「女性のてんかん患者における妊娠・出産」について思いを巡らせることがあります。厚生労働省・てんかん学会・日本神経学会など種々の組織や団体から、女性のてんかん患者について、思春期をめどに計画的な妊娠・出産の重要性や、できれば抗てんかん薬は単剤治療が望ましいこと、抗てんかん薬と催奇形性の関連、葉酸の有効性、等々の勧告がだされています。

そのなかで、女性のてんかん患者における葉酸内服は、胎児の神経管閉鎖不全の予防などに有用なことがわかっています。胎児形成や妊娠反応陽性の時期などを鑑みると、妊娠前から葉酸を補充しておくことが推奨されています。妊娠がわかってからの内服では遅いのです。

そこで私は、思春期にいたった女性の患者さんへ、葉酸内服を外来で切り出す方策を考えました。

狙うのは「母親といっしょに受診したとき」です。

葉酸内服をオススメする思春期女子の多くは、幼少のころから”自分の担当患者”として接してきた、いわば、「こども」の患者だった方々です。

将来女性として生きていく内容をお話しするのは、男性医師のわたしにとってそれなりに気を遣うことで・・・相手はデリケートなお年頃でもあります。

話題の内容的に、父親よりは、妊娠出産経験のある母親のほうがだんぜん頼りになります。心の中で、「ぜひ援護射撃をお願いします!」と願いながら私は、葉酸内服について切り出します。

「あなたもお年頃になったので、将来好きなひとができるかもしれない。場合によっては、そのひととの結婚、お子さんがほしいなと考えることがあってもいいと思う。(..中略)葉酸という、ビタミンみたいなお薬があって、妊娠を考えるような年頃になった女の人は、飲んだ方がいいっていう話があるんだけど、どう思う?」みたいなお話をします。

患者さんの反応はさまざまですが、おおむね3パターンに分かれます。

1)「わかりました。私も、もうそういう年齢ですしね。」葉酸内服を希望されるパターンです。話して良かった、と私もほっとします。

2)「話はわかりました。でも、私はまだ(例えば進学や就労があって)妊娠や結婚の予定はないので、いま葉酸を飲む必要はないと思うんです。」私としては、お話がわかって頂けただけでいまは充分です。葉酸は妊娠する前から内服していただきたいので、将来妊娠を考えたときに飲んだ方が良いとご理解頂ければ、私としては御の字です。(思春期以降の女性には全例投与すべき、といった意見もみたことがありますが、患者には自己決定権があって良いと私自身は考えています。)

3)「やだー先生、妊娠とかマジうける」とかいって、肩を叩かれるパターン。

さて困りました・・・

私としては、大まじめなのですが、まだ将来の妊娠と言われてもリアリティがないようです。ちらっと、助けをもとめて母親のほうを見ます。

母親のリアクション

a)「あなたの体のことだから、大切なことなのよ」

母親が諫めてくれるなら、まだ脈はあります。葉酸の重要性をもう一度お話しして、また考えてね、と促します。

b)母親も児といっしょになって笑って終了。

今日は出直しです。一時撤退します。

2)と3)のパターンは、忘れたようなふりをして、2-3年後あたりに再度同じ話を切り出します。「(葉酸のことは)大切な話なので、何度も同じ事を話すと思うけど、ごめんね」と、事前に予防線をはっておくと、こちらもすこし心が楽になります。

「1回お話ししたから患者さんにすべてこちらの言いたいことは伝わった」というのは、医師の思い込みだと私は思っています。

2)のパターンの患者さんに、3回同じ話をして、3回とも「初めて聞きました、ありがとうございます」と言われたこともあります。

(いつも同じ話をする私に気を遣って、話を合わせてくれているのかもしれませんが・・・)

3)のパターンの患者さんに、例えば15歳では将来の妊娠にリアリティがなくても、18歳、20歳なら、あるいは将来を考えるお相手ができたなら、受け止め方が変わるかも、と思ってお話しします。

「センセー、また言ってる」と思われてるかもしれません。

再度、笑って肩を叩かれても、また後年お話しています。大切な話なので。

このようなことを考えて日々診療しています。女性のてんかん患者における葉酸内服を少しでも多くの方々にお伝えできるよう努めてまいりたいと思ってお

ります。長文失礼いたしました。